何かがぼんやりわかった日のこと

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それは3月も終わり頃、子供たちと春の遠足に行ったときの話。
私動物園なんか面白いと思ったこと一度もなかったの。
動物っていうのはよその誰かが自分を可愛く見せる為の道具くらいに
思ってたわ。
でもね私、キリンやゾウやチンパンジーが、息をするたびに皮膚が微かに上下してるのを見て
「生きてるんだ」て気づいたの。
だからといってそこにいる動物達が生きていることは当たり前な訳で
寧ろ死んでいる方が非日常でしょ
だけど、そのとき、レッサーパンダよりもレッサーパンダのぬいぐるみの方が可愛いと思っていたわたしに、瞬間的に切り取られたものの美しさがピピピッと入ってきたの。
生きてるから肌が、腕の先の爪が、閉じたり開いたりする瞼が、複雑で予想の出来ない動きをしてる。それがすごくおもしろいと思ったの。生きてるってそういうことなんだってなんだか心にズンっときたの。
それでね、そのときいろんなことを思い出したの。
わたし、物心ついたころからいろんなことにこだわって生きてきた。
知らず知らずにつけていた知識によってまるで起こった出来事に一々点数をふって、アルバムを眺めるようにその得点を並べて眺めて自分の悦びにしてた。
ディズニーランドにいることよりも、ディズニーランドに行ったことが大事だった。
学校帰りに友達とサーティーワンを食べる プラス30点 
プリクラを撮る プラス20点
カッコいい人と飲みに行く プラス70点
そんな調子で青春ポイントを集めて、幸せなはずと言い切れる文字的な事実を使って
自分の中身を満たしてあげることがおばあさんになったときの自分の為だって、ずっと思ってたの。
だから何も起こらないときは自分を責めたわ。だって青春ポイントを、せっせと溜めてあげないと、尽きちゃう…
何もなくなっちゃう。


でも、このとき
どういうわけかわたし、初めてそこにいる自分が純粋に楽しめてることに気がついた。
こんな感覚初めて味わったわ。
見も知らぬレッサーパンダの皮膚の動きを眺めることにポイントなんてつかないわ。
ポイントなんてつかないけど、なんだかとてもかけがえがなかったの。


その日私、きっとこの世界に生まれたんだと思う。
今まではきっと狭い胎内で人生の練習でもしてたんだわ。
もう自分を守ろうとしなくてもいいの。
溜めてたポイントはどこかに消えて、
いいことがあったときに書いていた日記も大して魅力的に見えなくなったわ。


このときのことを思い出すと頭の中でブルーハーツの「歩く花」が流れるわ。
ほんとね、ある日突然ピンとくることがあるのね。
ほんとに私、根が生えて、足が生えたみたいな感覚よ。