高円寺の路上で可愛い女子とギター触りながら飲んでみた話

高円寺の路上で飲んでみた話


数年前辺りから高円寺は憧れの街として私の頭に君臨してきた。
地方都市のコミュニティの狭さにうんざりしていた私には、高円寺は本物の夢追い人が身を削って好きなことをやっている場所なのだという幻想があった。


引っ越してきて3ヶ月、幻想は薄れることはなかった。
高円寺には意外な出会いがあり、あたたかさもあり、話してみるとその人その人にちゃんと情緒が感じられて面白かった。
高円寺で遊ぶようになったおかげで同じように音楽が好きな友達が出来たり、作曲を教えてくれる人が出来た。
幸運なことにいつ行ってもまったりしている家のような場所まで見つけられた。


しかし半分私の偏見も入っているが、高円寺で飲んでいて年齢相応のおじさんは大体高慢スケベジジイだと言うことに気がついた。
同じ年齢でも見た目が若く見える人は変なことはしない。
おそらく年齢相応かそれ以上に見えるおじさんは、高円寺にキャバクラ感覚で来ている。


それに思い至ったのは先週とあるバーで酒を嗜んでいる時に私が絵描きだという話を聞いて興味を持った年相応なおじさんがいて、その人が「ええやん、ねーちゃんの絵気に入ったわ。Tシャツとか売ってんの?こうたる」と言うようなことを仰ったので連絡先を交換してTシャツを販売しているサイトのurlを送った。


それから数日しておじさんから「Tシャツめっちゃええやん!今週空いてたら飲みに行かない?」というようなラインが来た。Tシャツは買われていなかった。
Tシャツが買われなかったことは私の力不足な部分もあるだろうと思い、悲しかった。
だがそれを口実に連絡先交換しておいて口実無視して飲みに誘うとはどういうことか?と少し感情を顕にしてしまいそうになったのでラインの画面は静かに閉じた。致し方ない。


それから少し経ってインスタで可愛いなと思ってた女子が「誰かバンドを組みましょう」と呼びかけていたので私は飛びついた。
行動原理が高円寺に飲みに来るおじさんと同じだからイラッとするのかもしれない。
可愛い女子は「ほな路上でギター触りながら飲みましょう」というようなことを言ったので私は「おお、いわゆる高円寺やん!最高〜〜!」とワクワクしながらドンキで酒とつまみを買ってその場所へと向かった。


深夜24時半、女子は可愛かった。
可愛い女子と私は高円寺の路上でギターを触りながら「こんな曲調が好き、こんな詩を作りたい、このバンドのこういうとこが好き」というような話をしていた。夢のような時間だった。
しばらくして同じロータリー内のスペースで絵を描いている爺さんに集っていたナマハゲのようなおじさんと影が薄いが顔は濃い、歯が何本か無さそうなおじさんと、全身黒ずくめでやたらノリだけがいい若い大学生風の男が三人で寄ってきて、「そのギター気になってたんだけど」というようなことを言った。
住人達と戯れるのもまた高円寺だろう、とは思っていたが彼らは楽器すら手にしていないのになぜか少し偉そうなのだ。
そして可愛い女子は調子よく高めの声で(可愛い女子は会った瞬間から少し作っているような高めの接客声をキープしていたのでそれが板についてしまっているのかもしれない)応えていた。
可愛い女子はその辺のバーで働いているだとかなんとかで、ナマハゲは「お姉さん見たことあるわ」等と言い始めた。
どうやらナマハゲは客としてそのバーに言って可愛い女子と会ってツイッターをフォローしたがリムられたのだという。
私の感性の中での話だが相当嫌じゃないとリムるなんてことはしないだろう。
その時点で客としてまずヤバい客だと察しがついてしまった。
それなのにも関わらず可愛い女子は「え〜なんでだろう?」なんて言いつつギターを触りたがるナマハゲに「ウチらがバンドやったらベースとして入っちゃえば」等と言い始めた。


おべっかだとしてもどこから沸いてきたのかわからないナマハゲに使うおべっかなんてない。


私はトイレに行った際に、同じスペース内にいてさっきまでナマハゲ達に集られていた爺さんが描いていた絵を眺めていた。初見だが爺さんの絵がなんとなく好きだったからだ。
爺さんは私に気がつくと遠くで盛り上がるナマハゲを見つめながら「アイツらには気をつけた方がええよ」と言った。
「アイツら、ギターがどうだこうだいって結局女の子と喋りたいだけだから。さっきからずっと話しかけるタイミング伺っとった。そりゃ男だから気持ちはわかるけどアイツらは本当しょうもない。あんたも気をつけや」
もしかしなくてもおそらくあのスペースで一番まともだったのはその爺さんであろう。
私は「やっぱり?」と言いながらもう数時間も私らがいるベンチに居座っている男たちと、それになんのことなく答える可愛い女子を眺めた。
そろそろ日も上ってきたころだった。
戻った私にナマハゲが「ちょっと弾いてみてよ」などと言い「ストロークがなってないなあ」等とケチをつけはじめて限界が訪れた。
実際普段日の光なんて滅多に浴びないような生活をしていることもあり「あ、明るくなったらもう私外出れへんねん。吸血鬼生活送ってるから無理や〜ぼちぼち帰ろな〜」等と空々しく言い放ちながら強引に片付けをし始めた。
すると男たちも「なんやねんそれ〜」的なことを言いつつ解散モードになった。


最後にしつこく可愛い女子に話しかけ続けて「今度バー行くわ」と言った若い男が去り際に「えーっと、その金髪の子は名前なんだっけ?」と聞いてきた。
大正直に本当の下の名前を言ったがおそらく数時間後には忘れてるであろう。
あと私は金髪ではない。白髪だ。百歩譲って銀髪だ。ハイトーンをいっしょくたにするのやめろ!!!!!!


最後可愛い女子と二人になったとき、私はつい可愛い女子も絡まれて嫌だったのだと思って「もっと自分を大事にしていいんですよ!!仕事でもないのにあんなキモい奴と関わる必要ないっす!!」と言った。
可愛い女子は困ったように「今度は人が来ないとこでやりましょう」と言って笑った。

 


家に帰ってなんとなく可愛い女子がインスタに貼っているツイッターのアカウントを見てみた。
可愛い女子は「高円寺のノリに慣れてないとああなるよね」とツイートしていた。


高円寺のノリとは楽器を持っているわけでもないなんの参考にもならないナマハゲや影の薄い男や雰囲気系大学生に媚を売ることなのか?
私は心底落ち込んだ。


おそらく私のような女が構いたくなるような可愛い女子は、可愛いけどどこか自信のない女子なのだ。
先程にも書いたが無意識化では私もナマハゲと一緒なのだ。
だからこそ可愛い女子は私を受け入れ、同様にナマハゲも受け入れた。


以前にも美人の友人とビアガーデンに行って同じような目に合った。
私ばかりが、ブスのクセして(いやブスだからか?)審美眼ばかりを大切にして惹かれる要素のない人間をバッサバッサと切っていく。
それは一見負のループに見えるが、実際私は何の利益も生まないナマハゲの機嫌を取ることによって満たされる自尊心等は持ち合わせていないのだ。
私も私で自信のない人間ではあるが、自信のない美人とは少しばかり使われる回路が違うのだろう。